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授業で歌って英語力が上がる?映画『ズートピア』の「Try Everything」を英語の授業で使う理由

ガリ男

英語の授業で歌歌わされたんですけど、正直「え、歌?」ってなりました。勉強っぽくないし、なんか恥ずかしい。でも気づいたら家でも口ずさんでました。

Yes,沼❤️

むき兎
エドテク本人

実はこれ、狙い通りなんです。「Try Everything」は英語教育的に優秀すぎる楽曲です。

なぜ英語で歌を歌うのか

授業で音楽を使うと聞いて、「遊びじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。しかしこれには明確な教育的根拠があります。

Krashen(1982)の「情意フィルター仮説(Affective Filter Hypothesis)」によれば、学習者が不安・退屈・プレッシャーを感じているとき、言語インプットは脳に定着しにくいとされています¹。

逆に言えば、楽しい・心が動く状態のときこそ、英語は身体に入ってくる

¹ Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon Press.

「Try Everything」はまさにそのスイッチを押す曲です。

「Try Everything」が英語教材として優秀な3つの理由

① 中学英語の文法が自然な文脈で登場する

この曲が教材として優れている最大の理由は、中学校3年間で学ぶ主要文法が、ほぼすべて登場するという事実です。文法書の例文ではなく、感情を持った「生きた英語」として。


【助動詞 will の否定形 won't】

コーラスに繰り返し登場する I won't give up / I won't give in は、will の短縮否定形です。「~しないつもりだ」という強い意志を表す用法で、中学2年生で学習します。同じフレーズが何度も繰り返されるため、歌いながら自然に体に入ります。


【現在進行形・keep -ing の継続表現】

I keep falling down / I keep on hitting the ground は、keep -ing(〜し続ける) の構文です。現在進行形(be + -ing)と合わせて、「動作の継続」を表す表現として中学2年で登場します。I'll keep on making those new mistakes も同構造で、繰り返しの中で定着します。


【接続詞 though を使う譲歩表現】

I wanna try even though I could faileven though(〜にもかかわらず)は、中学3年生で学ぶ譲歩の接続詞です。「失敗するかもしれない、それでも挑戦したい」という意味の対比構造を、まさに感情の乗った文脈で体験できます。


【現在完了形 have/has + 過去分詞】

Look how far you've comeyou've done enough には、現在完了形が使われています。中学3年生の最重要文法のひとつで、「これまでの積み重ね」を表す用法です。過去形との違いが感覚的につかめる名フレーズです。


【否定の命令文・Don't 〜】

Don't beat yourself up / Don't need to run so fast は中学1年生で学ぶ否定命令文です。しかしその意味は「自分を責めるな、急ぎすぎるな」という、思春期の生徒への優しいメッセージ。文法の形と感情が一致しているため、記憶に深く刻まれます。


【without + 動名詞】

Nobody learns without getting it wrongwithout -ing(〜せずに)は、前置詞の後ろに動詞の-ing形が続く動名詞の用法です。中学3年〜高校入試頻出の構造で、「間違えずに学べる人はいない」というメッセージと一体になって刺さります。


文法項目曲中の表現学習学年の目安
助動詞 won't(意志)I won't give up中2
keep -ing(継続)I keep falling down中2
even though(譲歩)even though I could fail中3
現在完了形you've come / you've done中3
否定命令文Don't beat yourself up中1
without -ing(動名詞)without getting it wrong中3

教科書の例文で「なぜこれを覚えるのか」と思っていた文法が、この曲の中では存在理由を持って生きています。文法は「ルール」ではなく「気持ちを伝えるための道具」だと、生徒が体感できる——それがこの曲の最大の教育的価値です。

② 「失敗していい」というメッセージが中学生に刺さる

思春期の中学生は、間違えることを極端に恐れます。英語の授業で黙り込む生徒の多くは、「間違えたら恥ずかしい」という壁に阻まれています。そこで思い出してほしいのが、この曲の主人公・ジュディ・ホップスの姿です。

田舎育ちの小さなウサギが、誰もが不可能だと笑う「警察官になる夢」を追い続ける。

「ウサギに何ができる」と嘲笑されても、上司に左遷されても、親友に裏切られても——それでも彼女は自分の信念を曲げない

折れない。諦めない。もう一度立ち上がる。

この曲はそんなジュディの魂を歌ったものです。

英語の授業で言えば、ジュディの「不可能に挑む姿勢」と、英語を話すときの「間違えることへの恐怖」は、実は同じ構造をしています。どちらも「失敗を恐れて一歩が踏み出せない」という状態です。

しかしジュディは知っています。転ぶことより、挑まないことのほうがずっと怖い、ということを。

授業中に発音を間違えたっていい。文法がおかしくたっていい。まず口を開けること——それが「Try Everything」の精神です。この曲を歌いながら、生徒たちは英語の練習をしているのではなく、「失敗してもいい自分」を少しずつ育てているのだと私は思っています。

この曲のテーマは一言で言えば「何度失敗しても、また立ち上がれ」。

英語を学ぶ姿勢そのものへのメッセージとして、これ以上ない楽曲です。歌いながら、そのマインドが自然と刷り込まれていく。

特に4月に歌うことがきっと生徒にとっても気持ちを形成していく上で重要だと思います。

③ 映画との連携でリスニング・スピーキングに発展できる

映画プラス英語学習

『ズートピア』(Zootopia, 2016)は、英語学習教材として見たとき、教師が意図して作ったかのような完成度を持っています。なぜそう言い切れるのか。理論から説明します。


理論的背景:i+1インプット仮説

言語習得の第一人者、スティーブン・クラッシェン(Stephen Krashen)は、**「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」**こそが言語習得の核心だと主張しました¹。

鍵になる概念が i+1 です。

学習者の現在の言語レベルを「i」とすると、習得が起こるのは「i+1」、つまり今より少しだけ難しいインプットに触れたときだけ。

¹ Krashen, S. D. (1985). The Input Hypothesis: Issues and Implications. Longman.

『ズートピア』はまさにこの「i+1」を体現した作品です。映像・表情・音楽が意味の理解を補助するため、英語字幕で視聴しても内容が追えます。全編を通じて難解な専門用語は少なく、日常英語の自然な流れが続きます。


なぜ『ズートピア』が教材として優秀なのか

① セリフが短く、感情と直結している

長い演説ではなく、感情の乗った短い一言が連続します。驚き、怒り、励まし——感情と英語表現がセットになるため、記憶への定着率が高い。これは「感情タグ付き記憶」として認知科学的にも説明できます²。

² Kensinger, E. A. (2009). Remembering the details: Effects of emotion. Emotion Review.

② 社会的テーマが「考える英語」につながる

偏見・多様性・夢——これらのテーマは、中学生が自分事として英語を使う場面を作り出します。「What do you think about prejudice?」という問いに答えるとき、生徒は初めて「英語で考える」必要性を感じます。

③ 発音が明瞭で、スピードが一定

ディズニー映画の声優の発音は、アメリカ英語の標準的なモデル発音です。速すぎず遅すぎず、シャドーイング教材として理想的な条件が揃っています。

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ガリ男

理論的にもわかったし、つまり日本の英語教育はどんどん歌っていけばいいと言うことですね。

確かに、理論的根拠はある。でも正直に言います。

歌えば英語が身につく、はです。

正確に言うと——「歌が英語学習の扉を開ける」のであって、歌が英語を教えるわけではない。

クラッシェンの情意フィルター仮説が示すのは、「楽しさが吸収率を上げる」ということであって、「楽しければ何もしなくていい」ではありません。

日本の英語教育が長年抱えてきた問題は「つまらない」ことではなく、「英語を使う必然性がない」ことです。歌はその必然性を一瞬だけ作り出す装置として機能します。でも一瞬で終わらせてはいけない。

だから私が授業で「Try Everything」を歌うのは、そこから先のためです。歌詞の文法を分析し、映画を観て、自分の言葉で話す——その一連の流れの中に歌を置いている。

音楽は入口です。出口は、生徒が英語で何かを伝えたいと思う瞬間

その瞬間を作るために、今日も歌います。

エドテク本人

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